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死に数学は効かない

あらゆることを。

補色Ⅱ

彼/彼女は、諦めるフリがうまい人であった

彼/彼女は、諦めることができない人であった

じっとドアを見つめていた彼女は

本当は彼が残り香を道に置き続けることを知っていた

彼は彼で、まるでヘンゼルとグレーテルように、パン屑を道に置き続けた

そして鳥たちはそれを食べることをしなかった

彼女はウイスキーグラスを床に叩きつけ

ドアを蹴破った

走って、走って、走って、走って、走って、走って、息が切れて、息ができない、息が、呼吸が、心臓が、鼓動が、肺が、頭が、四肢が、何もかもが、彼女を形成する何もかもが、全てを支配し、全てから支配されていた

彼女は彼を見つけてしまった

逃げ道は後ろに続いている

彼女はいつもそちらを歩く人間だった

人間ですらなかったのかもしれない

それでも彼女はそちらを振り返らなかった

彼の肩を叩いてしまった

彼は振り返ることすら躊躇することなく

ただ一言

「また会えたね」

そう告げた

彼/彼女は笑うのが下手糞だから

ただ握手をした

星を見上げた

一緒に、星を見上げた